仮説91:バリアについて

「ムーの白鯨」作中において、ムー・アトランティスともに用いる「バリア」。
アニメ作品における「バリア」の初出は恐らく「マジンガーZ」あたりだと思いますが、初期の作品ではどんな物でも防げるといういささか便利すぎる技術でした。
その後も納得できるような説明を加え、形や名称を変えつつSF作品には付き物の基本技術となり、SF作品に限らず、伝奇的作品では霊的な存在に対してすら「結界」などと称して、フィクション作品では不可欠な設定となっています。
「ムーの白鯨」における「バリア」はムー側は単に「バリア」、アトランティス側は6話で「波状バリア」という名称が出て来ましたが、描写も微妙に違い、両者の技術は似ていても系統が違うと考えられます。

別項でも少し触れましたが、「バリア」と思しき技術も更に二系統に分けられそうです。
一つは、日常生活的に利用される技術としての存在です。
例えば、国連軍戦闘機のミサイルはアトランティス小型戦闘機にかすり傷一つ付けることができませんでした。この時、アトランティス側はバリア的な技術で身を守っていたと考えられますが、不可視であることからして、コンドル要塞等が用いた「波状バリア」とは似て非なるものと言えそうです。
また、ムーバルが小型戦闘機のビームをある程度耐えることができたのも、同様に不可視のバリア的な技術に守られていたと考えるべきです。こちらも白鯨のバリアとは別系統の技術でしょう。
これら不可視のバリア的技術は、特に名称がありませんでしたので、ここでは「シールド」と仮称することにします。
このシールドは、例えば宇宙船が小型隕石やデブリを防ぐための簡易防護壁のようなもの、もっと簡単に言えば自動車に物が当たった際に乗員を守るための強度を持たせる、といった技術に当たるでしょうか。
また、明らかに空気抵抗がありすぎる形状のムーバルを超音速で飛行させるための技術としてもシールドは応用されたと考えられます。
これらシールドは国連軍のミサイル攻撃のような、アトランティスにしてみれば小石が当たる程度の打撃に対する防御としては充分でも、元が軍事用技術でないだけに、ムーバルの熱球ビームに対しては無力だったようです。
そしてもう一つが、軍事技術としての「バリア」です。
白鯨・コンドル要塞とも、展開するバリアは可視のものであり、シールドとは明らかに異なります。また、シールドが基本的に常時展開されていると思われるのに対し、バリアは戦闘時にのみ展開されている点も異なります。
描写を見る限り、バリアを展開し続けることに対するエネルギー切れの心配はなさそうですが、どうやらバリアを展開している間はビーム攻撃や母艦の発着艦等はできなさそうなことはムー・アトランティスとも共通しています。
また、白鯨では物語初期において、バリアを展開しての体当たりが攻撃手段なのも特徴的です。本来は防御兵器であるバリアを攻撃手段とする描写は、この白鯨以外にはちょっと見当たりません。
気になるのは、18話でオリハルコンパワーによる隕石攻撃に晒された際は白鯨のバリアでラ・メールや剣たちを庇った描写です。
アトランティス小型戦闘機なら触れるだけで破壊できる威力を持つ白鯨のバリアで、なぜムーバルやラ・メール機は破壊されなかったのか……?
破壊対象を選択できるような便利な機能があったのか、又は部分的にバリアを変化させて対象物を破壊せずに置く機能があったのかも知れません。

戦術的に注目すべき点は、いかにすれば相手のバリアを無効化できるか、ということです。
国連軍の科学技術レベルではアトランティスのバリアはおろか、シールドさえ破ることは叶いませんでしたが、ムー・アトランティス間では何らかの対処方法が存在していたと考えられます。
普通に考えれば、ある意味実体のない障壁を物理攻撃で突破するのは無理そうに思われます。実際、他の作品では通常攻撃で破れないバリアを特殊な方法で無効化する、という例もありますが、「ムーの白鯨」ではそのような展開は見られず、力技で突破していました。
実際、5話で白鯨と初めて交戦した際に、プラトスは自軍のビーム攻撃でバリアを破ろうとしていました。不可能なことを命じるはずはありませんから、プラトスはビーム攻撃でバリアを破ることが可能だと知っていたことになります。
理論上、防御力を上回る攻撃を与えればどんな防壁も破壊可能なはずです。問題は、強力なビームの一撃で破るならともかく、実体のないバリアを小さな力の連射で破ることが可能なのか、という点です。
架空の技術ゆえ想像するしかありませんが、本体(白鯨やコンドル要塞)からエネルギーの供給がある限り、小型ビームでいくら撃ってもバリアが薄くなるようなことはなさそうに思えます。
とは言え、国連軍のミサイル攻撃ならともかく、多数のビームで連続して撃ち続ければ、全体としてはバリアの防御を次第に上回ってついには本体へ攻撃が届く、つまりバリアを破ることも可能になるのかも知れません。
18話の隕石攻撃でも白鯨はバリアで防御したものの、無尽蔵とも思える隕石の雨を防ぎきれず、最終的にはダメージを受けてしまいました。
もっとも、この時は剣たちやラ・メールを守っている状態でしたので、通常時と同列に考えることはできません。まして、剣たちが白鯨に搭乗していなかったので、パワーが不充分だったとも考えられます。
オリハルコンパワービームのような大エネルギーの一撃でバリアを破ろうとするような場面はありませんでしたが、14話の南極決戦におけるコンドル要塞との直接対決では、白鯨をはるかに上回る大質量を持つコンドル要塞の特攻に、白鯨はバリアごと弾き飛ばされています。
アトランティス側のバリア使用頻度はあまり多くなく、6話でコンドル要塞が剣のムーバルを捕らえるのに用いた場面、16話でプラトスが地球占領軍を率いて大気圏に突入する際に旗艦を防禦した場面(戦闘は行なわれず)、そして21話でオリハルコンを安置したアトランティス中枢部分をバリアで防御した場面くらいでした。やはり攻撃的な性格のアトランティス軍としては、防御兵器はあまり重要視されていなかったということでしょう。

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