仮説87:富士山について

「ムーの白鯨」第3話において、オリハルコン探索機の影響で噴火し、剣の故郷を溶岩で埋め尽くした富士山。
言わずと知れた日本の象徴とも言うべき山ですが、そもそもここをアトランティスがオリハルコン探索の第一目標とした理由は、「霊峰」と呼ばれることからオリハルコンが眠っているのでは、と誤解したのが原因でした。
富士山は日本で一番高い山であり、均整の取れた美しい山です。が、地質学的には成層火山に分類される、ごくありふれた火山にすぎません。
他の山の標高が高くても3,100m〜3,200m程度の日本にあって、富士山だけが3,776mと突出して高いことと、独立峰ということもあって目立つのは確かですが。
日本中、あるいは世界各地に○○富士と日本人の呼ぶ山がいくつもあることからも、この種の火山がさして珍しくないことが分かります。
2013年に富士山は世界遺産に登録されましたが、それは文化的景観を評価した文化遺産としてであり、それ以前に自然遺産として登録を目指したものの果たせずにいました。
当時、登録不可の理由として富士山のゴミ問題などが取りざたされましたが、評価すべき富士山独自の生態系に乏しかったことも見逃せません。
作中でも富士山を目にしたプラトスの部下が、「こうして見ると、ただのありふれた火山にしか見えませんが……」と評しましたが、それも無理からぬところでしょう。
アトランティス人は山岳民族という設定ですので、彼らには火山など珍しくもなかったでしょうからなおさらです。

さて、第3話冒頭でイースター島を飛び出した剣は、帰り着いた故郷が壊滅していてショックを受けます。
その際、「富士山は死火山のはずなのに……」という剣の台詞が注目されます。
死火山というのは学術的には、「有史以来、活動の記録がない火山」のことです。ちなみに休火山は「有史以来、火山活動の記録はあるが噴気などの目立った活動のない火山」となっています。
一方、富士山は日本史の中でも噴火記録があり、決して死火山ではありません。上記の定義で言えば、富士山は休火山となります。
しかし、1960年代頃から学術的には「死火山」や「休火山」という言葉は使われなくなっており、富士山は「活火山」として扱われていました。
2003年の火山噴火予知連絡会の定義によると、活火山とは「概ね過去1万年以内に噴火した火山、及び現在活発な噴気活動のある火山」となっています。

とは言え、学者でも何でもない剣に学術上の定義など意味はないでしょう。
当時の一般人なら「噴火の恐れのない火山=死火山」という程度の認識だったはずです。
そして、富士山が最後に大規模噴火を起こしたのは江戸時代中期の1707年、宝永大噴火のときで、作中舞台の1982年時点で275年経っています。
数万年単位で考えなければならない大地の営みを人間の歴史規模で計るのは無理があることから死火山・休火山といった名称が使われなくなったわけですが、一般人の感覚では数百年に亘って噴火がなければ、もう噴火はしないと考えるのも無理からぬことです。

富士山は直ぐにも噴火するような状態ではなかったにせよ、噴火の要素はあったわけですが、第1話冒頭で世界各地を異常現象が襲った際に噴火していてもおかしくなかったはずです。
恐らく、いつ噴火してもおかしくない状態になっていたところに、アトランティスのオリハルコン探索機はその最後のひと押しをしてしまったということでしょう。

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