仮説70:各話分析(10)
『ナスカ謎の地上絵』について

「ムーの白鯨」第10話はシリーズものにはつきもののサブキャラにスポットを当てたストーリー、主に譲の過去について語っています。
仮題段階のサブタイトルは『ナスカ・最後のキックオフ』で、天才サッカープレイヤーであった譲について語ることを前面に押し出しています。

当たり前のことではありますが、ムー戦士として招集される以前にも彼ら5人それぞれの人生があったわけで、たかだか十数年とはいえどんな人生を歩んできたのか興味もあります。
しかし、第2話で訳も分からず招集された中、剣以外の4人が召集前の生活に特に未練を抱いていないように見える辺り、3万年前のムー戦士の精神を直接受け継いでいるという事情があるにせよ、それまでの人生が彼ら自身にとってさしたる意味を持っていなかったのでは、とさえ思えてきます。
とは言え、譲にもムー戦士となる以前の、サッカープレイヤーとしての人生に一つのこだわりが残っていた辺り、彼も戦士である以前に一人の人間であったということでしょう。
譲以外にこの回、麗が天才テニスプレイヤーだったことが触れられるのを除くと、他のキャラについて描かれることがなかったのは、話数の問題があったとはいえ、いささか残念な点ではあります。

さて、譲にとってサッカーにおける無二の親友であり最大のライバルであるポポロとの決着の約束、それを果たすべくワールドカップの舞台へ向かう譲、そしてその背中を押してやる剣の意外なリーダーっぷりもなかなか見せてくれます。
しかし、肝心のポポロはワールドカップの舞台には現れませんでした。
ワールドカップという夢の大舞台。それも競うべき相手がいない中では虚しいだけだったでしょう。
時同じく、アトランティスは3万年前から地上に残っていたナスカの基地に進出すべく動き出していました。そのナスカを護る一族の中にポポロが居たという運命の皮肉。譲とポポロは約束とは違う舞台で戦うことになってしまいます。
サッカーでの決着を望みながら、一族の宿命という枷から自由になれなかったポポロとの対立と、それに続く無残な最期。
そして、ナスカを舞台にムーとアトランティスの戦いが始まります。
ここで第5話以来、白鯨を呼ぶ剣たち。思えばそれまでは操縦カプセルに居たマドーラが操縦して行った第8話やラ・ムー自身の意思で剣たちの元へ駆けつけたりなどで、わざわざ特別な「呼び方」を要するのが納得できるのは全話を通しても、この第10話をおいて他にありません。
ムーバルでは歯が立たないアトランティス爆撃機の登場はあったものの、白鯨の前では問題にもならない戦力差で撃破、しかもナスカ基地を巻き込んで全滅という結末は、あっけなさ過ぎの感は否めません。
もっとも、「ムーの白鯨」は派手派手しい戦闘シーンを描くのがメインのお話ではないので、これで良いのかも知れません。

戦いの終わった後、「あばよ」とアンデスの空に向けてサッカーボールを大きく蹴り出した譲。その言葉は約束を果たせなかった親友との別れと同時に、この先競うべき相手を永遠に失ったサッカーへの別れだったのかも知れません。

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