仮説69:各話分析(09)
『オリハルコンを探せ!』について

「ムーの白鯨」第9話は『オリハルコンを探せ!』、アトランティス側がオリハルコンを求めているのは第2話でラ・ムーが明言しているので今さらでもないですし、アトランティス側がオリハルコンを探すに当たっての筋道はその前の第8話で明確になっていましたが、この第9話において剣たちも同じ筋道に沿って対抗する流れができたことになります。

それにしても、アトランティスの狙いを推測する学の論理は飛躍しすぎと言わざるを得ません。
「敵はピラミッドに続いてマチュピチュに現れたんです。だとしたら、古代遺跡とオリハルコンは何らかの形で結びついているはずです」
結果的に学の推論は的外れなものではなかったわけですが、実際にはピラミッドはアトランティス帝国の基地跡でオリハルコン探索に直接の関係はなく、ここまででオリハルコン探索の舞台となった古代遺跡はマチュピチュだけでした。他にオリハルコン探索目標になったのは3話の富士山だけで、こちらは遺跡でも何でもありません。
まして、富士山の場合はアトランティスが現れたのがオリハルコン探索目的であったとムー側が知っていたのかは非常に疑問です。
まあ、戦略的要地でも何でもないマチュピチュに、アトランティスが現れた目的がオリハルコン探索だと推論するのは、それほど無理のあることでもありませんが。

それはともかく、その流れの中でラ・ムーが語ったオリハルコンとラ・グリルの伝説。はるかな昔、神が地球に投げ込んだ二つの光。人間に文明を創造する力をもたらすと同時に限りない欲望をも備え付けたオリハルコンと、人間に科学と精神との調和、言うなれば心を備え付けたラ・グリルとの物語……。
このときはさらっと軽く流されてしまいましたが、この存在が後に「ムーの白鯨」という作品世界のテーマを語る上で非常に重要なものとなってきます。

さて、アトランティスの狙いを阻止するために、敵より早くオリハルコンを見つけ出す必要に迫られた剣たち。
その手掛かりを考える中で、学が目を付けたのが洪水伝説でした。
3万年前、ムーが沈み、アトランティスが異次元へと消えた影響で世界各地に天変地異が発生したはず。そのことは洪水伝説として伝わっているはず。その中に、オリハルコンのことも何か伝わっているのでは、との三段論法ですが、こちらもいささか飛躍しすぎの感は否めません。
しかし剣も言うように「何もしないよりましだ」と、捜索を開始します。
譲と麗、学と別行動で麓の村に降りた剣とマドーラ。その聞き込みの中で二人は、村人の間で聖地として祀られている『光る矢』の伝説にたどり着きます。
……ただ、村人もどう見てもよそ者の剣とマドーラに、よく禁制の場所を教えてくれたもんだと思いますが(笑)。
はっきり言って不法侵入だろ、という突っ込みはなしにして、伝説の聖地に足を踏み入れた剣とマドーラ。そこは奇しくも、3万年前に戦いの中で消息を絶ったケインの形見が残されていました。
回想で3万年前の幸せだった頃を思い起こすマドーラ……このケインとの回想シーンにおけるマドーラの表情は、8話以上の魅力に溢れています。
やはり、彼女にとって一番の大切な想い出だからでしょう。

一方その頃、アトランティス側ではバッカスがゴルゴスに地中海・クレタ島一帯の古代遺跡調査を命じられて出撃します。小説版では、剣との一騎打ちにこだわるあまり失敗続きのプラトスをゴルゴスが一線から退かせる描写があり、この後しばらくプラトスが登場しない説明になっていましたが、テレビ版ではその描写はありません。
もっとも、実際の時間経過はともかくとして、作中でプラトスが登場しないのはこの回と次回の2回だけですが……。
さて、バッカスの目的はあくまでオリハルコン探索でしたが、調査目的地近くに白鯨が進出していたことから、偶発的に戦端が開かれることになります。
調査でメンバーがバラバラになっていたこともあり、剣を欠く4人で戦闘に臨むことになった白鯨。メンバーが揃わない状態だったことが原因かどうかは定かではありませんが、白鯨は隙を突かれ腹部に重戦闘機の大口径ビームを受けてしまいます。
そのピンチを救ったのは、遅れて参戦した剣でした。
ダメージを与えた白鯨に連撃を狙って突っ込んだバッカスの前へ、割って入った剣のムーバルから熱球ビームを叩きこまれ、体勢が崩れたところへ熱球ビームの連射を受けて撃墜されるシーンは、珍しく剣の主人公らしい見せ場となっています。

しかし、この回のメインはやはりマドーラのケインとの決別にあると言えるでしょう。
戦いを終えて帰還する白鯨と、それに寄り添って飛ぶ、剣とマドーラが搭乗した二機のムーバル。そのコクピットで一人ケインに別れを告げるマドーラ。
そして、イースター島へ戻り、ケインの形見である短剣を剣に渡したマドーラ。
「ケインの遺志を継ぐのは、あなたよ」
しかしこのときマドーラは短剣と一緒に見つけたペンダントは剣に渡していません。
これは彼女がまだ剣の気持ちを確かめていなかったことと同時に、ケインとの繋がりを完全に捨てきれずにいた心の葛藤を示していたのかも知れません。

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