仮説66:各話分析(06)
『白鯨敗れる!』について

「ムーの白鯨」6話冒頭は本作屈指の名シーンの一つ、剣の「ラーメンが食いてぇ……」のシーンです。
故郷を離れて普段食べ慣れない食事が続いたとなれば、故郷の味を懐かしむことは理解できます。まして、剣は自分の意思で故郷を離れたわけではないだけに、なおさらです。
……にしても……前回、5話で剣がマドーラの手料理をけなしたのは思春期の男特有の反応かと思っていたのですが、どうやらホントに口に合わなかったということのようです。何ちゅーゼータクなっ!っつーか許せんっ!!
ま、それは置いとくとしても……物語当初からどこか達観したようなクールな雰囲気をまとっていたマドーラが、4話の3万年前の世界で恋する少女の姿を見せた後、舞台を現代に戻した5話より次第に可愛らしさを見せるようになってきましたが、この6話の冒頭のシーンはその一つのピークを見せていると言っても決して過言ではないでしょう。
この後のラ・ムーとの会話で、マドーラが心を失っていたという事実が明らかにされますが、そのことは取りも直さず、このときのマドーラが失った心を取り戻しつつあることを示しています。
心を失くしたがゆえに何の不安も覚えないクールな状態と、心を取り戻すことによる精神の不安定さに戸惑う姿が混然となり、一人の少女の魅力となって発現していると言えます。
いつしか剣に心魅かれる自分と、そしてその想いが相手に伝わらないもどかしさ……。
一方、剣は両親の仇であるアトランティスを憎むあまり、マドーラにきつい一言を言ってしまいます。
「あんたに言ったって分からねぇよな……3万年をタイムトリップしてきた特別な人間に、『普通の人間』の気持ちなんか……」
剣にしてみれば、会話の流れから出てきた何気ない……本当に何気ない一言だったのでしょうが……心を取り戻しつつあるマドーラにとってみれば、その心をかき乱すキーとなる重要な一言でした。
「『普通の人間』……」
剣の一言がなぜ気になるのか……それさえも分からないまま、父の声や敵の接近さえ捉えることができないほど悩んでしまうマドーラ。
ラ・ムーはそれを脳波の乱れとして捉えていたようでしたが、それは彼女が心を取り戻してしまったことによる葛藤でした。
そして彼女が白昼夢のように見る剣の危機。それはラ・ムーに源を発する予知能力が、彼女が心を取り戻したがゆえに剣の未来予知に捻じ曲げられたものだったのか、それとも単に彼女の不安が幻影となって現れたものだったのか……。

そんなマドーラの不安を具現化するように、アトランティス側が動き出します。
前回、プラトスが収集した白鯨のデータを分析し、勝算の立ったゴルゴスは自らコンドル要塞で出撃。
3話の戦闘で自らの戦歴に汚点を付けられたがゆえか、プラトスは剣を自分の手で、それも正々堂々と戦って倒すことに固執します。
ムー戦士長の生まれ変わりとは言え、まだまだ戦いに不慣れな剣では、アトランティス皇子として英才教育を受けてきたであろうプラトスに対してはいささか分が悪いようで、善戦はしたものの次第に劣勢に追い込まれます。
しかしあと一歩のところで、剣のムーバルはコンドル要塞のバリアの中に閉じ込められます。
白鯨をおびき出すための餌として剣を捕らえるというゴルゴスの判断は戦略的見地から言えば的確なものです。
実際、白鯨は剣を助けるためにコンドル要塞の前に姿を現すしかありませんでした。
しかも、意図してのことかどうかは不明ですが、ゴルゴスは剣を捕らえることで白鯨のパワーを削ぐことに成功します。
もっとも、先にプラトスが収集したデータを分析した上で、勝算を持って出撃したコンドル要塞です。仮にベストの状態で対峙したとしても、白鯨に勝機があったかは疑わしいです。
いずれにせよ、剣のムーバルを庇って腹を晒したところにコンドル要塞の主砲を受けた白鯨。
剣の死を予見する未来から剣を護り切った代償のように、父ラ・ムーを失ったマドーラ。剣の無事な姿を目にしても、その胸にすがって泣き崩れるしかありませんでした。
敗北の後、パワーアップしての復活という、いささか使い古されたパターンの前半といった回ではありますが、マドーラが人間としての心を取り戻しつつある回という位置付けの方が、ストーリー的にはむしろ重要と言えましょう。

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