仮説59:プラトスとラ・メールについて

「ムーの白鯨」後半のメインカップル、アトランティス帝国第二皇子プラトスと、ラ・ムーの娘にしてマドーラの双子の姉、ラ・メール。
二人の初登場は2話でしたが、敵方美形キャラのプラトスと、そのプラトスに想いを寄せる敵方女幹部といった立ち位置のラ・メールと、ステレオタイプの敵キャラでした。
特に前半では剣とマドーラがストーリーの中心だったこともあって、ムーに対抗心を燃やしつつ今一歩のところで勝利を得ることができない敵将と、それを支えつつもその想いには気付いて貰えない敵方ヒロイン、という構図もスーパーロボット物では非常にありがちなパターンでした。

プラトスとラ・メールのカップルが初めて前面に出てきた回は、物語も中盤に差し掛かった11話でした。
いきなりキスシーンが出てくるのには驚かされましたが……。
「ムーの白鯨」作中でキスシーンの初出は4話のケインとマドーラの別れのシーンでしたが、こちらは既にお互いの想いを分かった上でのシーンでした。
それに対し、この11話ではラ・メールからの一方的なキス……もっとも、プラトスを危険な任務から外すための策略だったあたり、ラ・メールの強さが如実に出たシーンではあります。

本格的にプラトスとラ・メールのカップルが前面に出てくるのは中盤の山場、南極決戦を経て国連が無条件降伏する16話、そしてムー側にラ・メールの存在が知られ、3万年前の経緯が語られる17話の辺りからです。
主人公はあくまで剣の側ですが、風雲急を告げるプラトスとラ・メールのストーリーに比重は移ってゆきます。
18話で囮として使われ、19話ではいきなり捕らえられて牢に入れられるラ・メール。当人には訳が分からないまま運命に翻弄される少女。
事情を知るムー側のメンバーたちにもラ・メールが陥った状況の詳細を知るすべはなく、どうすることもできずあがくしかありません。

一方、プラトスはアトランティスの正義を信じて戦い続けて、南極決戦で戦死した兄・ゴルゴスからアトランティスの未来を託され、ますます祖国の勝利に向かって邁進してゆくように見えました。
しかし、アトランティス帝国の地上への無差別攻撃を目の当たりにして、自身の中でアトランティスの正義が揺らぎ始めたのと時を同じくしてラ・メールが捕らえられ、祖国の勝利のみを考えるばかりで周りが見えていなかったプラトスも、ここにきてようやくラ・メールの想い、自分にとってラ・メールの存在がいかに大きかったかを自覚したのではないでしょうか。
それでもアトランティスの正義を信じ続けようとしたプラトスでしたが、父・ザルゴンに「愛」を否定され、母・コンドラを失い、遂にはかけがえのないラ・メールを自らの手で処刑するよう命じられたとき、彼が取るべき道は父への反逆しかありませんでした。
このときのプラトスは唯ラ・メールを護るというその一心で行動を起こしただけで、駆けつけた剣の助けもあってラ・メールを逃がすことに成功した後は自身がどうなろうと構わない思いでいたはずです。
しかしラ・メールのプラトスへの想いもあったのでしょうが、この事件がアトランティス帝国を揺るがす反乱へと発展するストーリー展開は、単に一組のカップルの行く末を描くに留まらず、歴史物語を観るようで非常に面白いです。
それでも、いかなる犠牲を払ってでもラ・メールと共に幸せに生きることのできる新たな社会を築くのではなく、できるだけ穏便に事態を解決しようとしたプラトスの、ザルゴンに言わせれば「甘さ」が彼の命取りとなってしまうのは、プラトスらしいとも言えます。

結局、反乱は失敗に終わりますが、歴史の転換というものはあるいは、傍目にはほんのささいなことから始まるものなのかも知れません。

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