仮説53:ゴルゴスについて

アトランティス帝国第一皇子・ゴルゴス。物語前半におけるアトランティス側のボスキャラです。
ゴルゴスは良く言えば現実的かつ合理的な、悪く言えば極めて冷酷な考えの持ち主でした。
それゆえに、理想主義者のプラトスは納得がゆかず、事あるごとに衝突していました。正しくは、突っかかってはねじ伏せられている感じでしたが……。
6話では剣との一騎打ちにこだわるプラトスの戦いに水を差してまで、的確な判断で白鯨を罠に嵌めて海に沈めることに成功します。
また、テレビ版では明確にされませんでしたが、小説版では9話に当たるエピソードで、剣との対決にこだわるあまり失敗したプラトスを、強権をもって第一線から下げてしまいます。
更に、11話では危険な任務と知りながらプラトスに出撃命令を下しています。
観る側からすると、主要キャラゆえに不当な扱いのように映りますが、ゴルゴスとしては部下としてごく普通の対応をしただけのことで、ことさら冷遇しているわけではありません。
大勢の部下をまとめる立場としては、実弟といえども部下の一人である以上、特別扱いしては周囲への示しがつかないと考えていたのでしょう。
実際、11話でプラトスに代わって出撃したラ・メールがバミューダ海域で消滅したときも、ゴルゴスは動揺一つ見せませんでした。
ゴルゴスがラ・メールをどう見ていたのか定かではありませんが、プラトスの台詞からすると兄妹同然に育ってきた間柄だったはずです。
必要とあれば、部下を死地に送る命令も下さなければならない立場としては、例えプラトスが同じ状況に陥ったとしても、同じ態度を取らざるを得なかったでしょう。
と言って、温情が全くないわけでもありません。
11話では自分の身代りとして出撃したラ・メールの危機を知って救助に向かおうとするプラトスに対して、口では「放っておけ」と言いつつもあえて止めようとはしなかった辺り、司令官としての体裁を保ちつつ兄としての度量も見せてくれました。

しかし、何と言ってもゴルゴス最大の見せ場は14話の南極決戦でしょう。
ゴルゴスにとって最大の使命であるオリハルコンを奪取したものの、白鯨の執拗な攻撃にコンドル要塞も多大なダメージを受け、このままでは帰還もおぼつかない状態にまで追い込まれます。
出撃を進言するプラトスを制してコンドル要塞を上下に切り離すように命じると、オリハルコンを上側のプラトスに託して自らは爆発寸前の下側に残り、追撃してくる白鯨に体当たりを敢行、壮絶な戦死を遂げるその姿は、自らの信念に生きた武人そのものでした。
もしこのとき、ゴルゴスの死をかけた活躍がなく、白鯨がコンドル要塞を撃破してアトランティスのオリハルコン奪還を阻止していたとしたら、一体どうなっていたでしょうか?
まず、アトランティス帝国は木星との激突の危機を回避する術なく、大陸を放棄する他なかったことは火を見るまでもなく明らかです。
そして忘れてはならないのが、アトランティス帝国民の運命です。
常識的に考えて、大陸から全ての人民を避難させるのは極めて困難であろうことから、多くの民が大陸と運命を共にするしかなかったのではないでしょうか?
それら無辜の民を救うことになったゴルゴスの行動は、アトランティス帝国皇子としての役目を充分に果たしたものだったと言えます。
弟のプラトスに後を託し、アトランティス人民の未来を開いての壮絶な死にざま。それは、「ムーの白鯨」で最もカッコ良いものだったと言っても決して過言ではないでしょう。
極めて冷酷な人物と思えたその性格も、多くの人民の未来を背負ったことによる責任感ゆえのことだったのかも知れません。
「大事なのは俺の命ではない。オリハルコンだ」
「皆が待っている。オリハルコンを持ち帰り、アトランティスの民に勇気と希望の光を与えるのだ」
私利私欲で動く人間の口から、こんな言葉が出てくるはずもありません。まして、自ら命を投げ出すことも……。
敵側ということでとかく悪印象を抱かされるアトランティスですが、必ずしも悪の権化というわけではなく、誇り高く勇敢なる民族というのが本来の姿だったのではないでしょうか。
アトランティス民族の文化や精神性は想像するしかありませんが、ゴルゴスの死は、アトランティス民族の誇りを体現するものだったのかも知れません。

とはいえ、仮にオリハルコンがアトランティスに渡らなかったとしたら、多くのアトランティス帝国民は犠牲になったでしょうが、その代わりオリハルコンパワービームによる大量虐殺などは発生しなかったでしょう。
しかし、それで地上が平和になったかと言うとあやしいもので、一応国際機関としての体裁を維持していたと思われる国連の主導で世界の復旧は図られたでしょうが、各国の利害が対立して新たな火種が発生したことも充分考えられます。
また、本国の消滅から逃れたアトランティスの残党がなおもザルゴン復活を目指し、地球に残されたオリハルコンを狙って暗躍を続けたでしょう。
紛争というのは一度発生すると簡単には収まらないものですが、この場合も同じことが言えそうです。

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