仮説52:プラトスについて

アトランティス帝国第二皇子・プラトス。「ムーの白鯨」後半のヒロイン、ラ・メールのパートナー、第二の主人公ともいうべきキャラです。
長い髪と端正な顔立ちでルックスは美形キャラの要件を満たしており、またいささかキザっぽい言動もシーンの端々に見て取れ、典型的な美形敵役キャラと言えます。
とはいえ、その言動はかなり理想論的と言わざるを得ないものでした。
その誇り高さもあって剣との対決においては正々堂々、一対一の勝負にこだわり、それがために勝機を逸したことも幾度となくあります。
兄・ゴルゴスには「まだ若いというだけのことよ」と言われ、科学長官ハイドには「甘い」と苦言を漏らされ、父王・ザルゴンには「腰ぬけ」呼ばわりされる始末です。
もっとも、その理想論もアトランティス帝国のしかも皇族としての選民教育を受け、しかし差し当たりは皇位継承には関わりがなさそうな第二皇子という比較的自由な立場ゆえのことだったとも言えます。
小説版では冒頭の国連軍相手の掃討戦ですら、無益な戦いを避けようとする平和主義者的な描写でした。裏を返せばそれは、彼我の圧倒的戦力差を認識しているがゆえの余裕の表れとも言えますが……。
一方、テレビ版ではためらうことなく国連軍への攻撃を命じ、実戦においてはジェット戦闘機をカトンボ呼ばわりするなど、現生人類を完全になめきっています。
その後、7話で剣に語った台詞が、プラトスのスタンスを如実に物語っています。
「我々の強大な力で地球を支配する。どんな戦いも我々の力の前には無力だと知れば、君たちは武器を捨てるであろう。そしてこの美しい星、地球に平和が来るのだ」
……何とも見事なまでに、上から目線の物言いです。
しかし、この台詞、プラトスの言葉として語られてはいますが、考え方としてはザルゴンの思想そのものと言えます。さすがは帝王ザルゴンの皇子といったところでしょうか。

しかし偏った教育がその根底にあったとはいえ、プラトスが地球の人々を導き、平和な社会を築こうという理想に燃えていたことは確かです。
前半は地球派遣軍副司令として、合理的ながらも冷酷な判断を下す兄・ゴルゴスと度々衝突しましたが、その死後は兄の遺志を継いで地球占領軍の司令官となります。
立場上、アトランティス帝国の利益を第一に考えるのはプラトスにとって当然でしたが、決して地上の人々に圧政を敷くわけではなく、温情を持って接しようとする態度が印象的でした。
それが父王・ザルゴンの復活以降、アトランティスの正義に次第に疑問を抱くようになります。
地球から醜い争いをなくし、世界に平和をもたらすために必要だったはずの、アトランティスによる軍事支配。
しかし、現実はその強大な軍事力で無差別に人々を殺戮し、緑の大地を焼き尽くす姿でした。心に抱いていた理想とあまりにかけ離れた現実……。
人間は自分の過ちを認めることが難しいものです。まして、それまでの理想と180度違い、自分自身が悪の側に加担していたなどということは、プラトスには到底受け入れ難いことだったはずです。
普通なら、自分以外の誰かに責任を押しつけ、あるいは自分では如何ともし難い社会情勢などを理由にして、自分自身を無理やり納得させ、そのまま流されてしまうことでしょう。
しかし、プラトスは逃げませんでした。
自身の間違いを素直に認め、それを正そうとする勇気、そして行動力。
皇子という立場に居たとはいえ、そこにはプラトスにとってかけがえのない、ラ・メールの存在があったことが大きいと考えるべきでしょう。しかし、このことは項を改めて考察することにしたいと思います。

ともあれ、一般兵士たちの見守る中での帝王・ザルゴンに対するプラトスの反逆、そしてそれをきっかけに起きた帝国を揺るがす反乱が、歴史を大きく動かすことになります。
そこには帝国内部にくすぶっていた、ザルゴンに対する反感もあったでしょうが、プラトスの人望も大きく影響していたと考えるべきです。
しかし、最後には父を手にかけることなどできない、ザルゴンに言わせれば「軟弱さ」が命取りになってしまうのは、プラトスの宿命だったのかも知れません。

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