仮説49:白風信について

白風信(シラカゼ・シン)、15歳。ムー戦士、シンムの生まれ変わり。
類型的には「気は優しくて力持ち」タイプのキャラですが、その体型とは裏腹に、5人の戦士たちの中では最も目立たないキャラだったと言えます。
白兵戦となる局面が少なかったこともありますが、そのパワーを発揮したのは10話で突撃してくるアトランティス兵士たちに対して岩を転がり落したのが唯一のシーンでした。
後は、25話においてアトランティス爆撃隊の攻撃で海底神殿が崩壊する中、負傷した譲を背負って白鯨に避難するシーンも信が活躍するシーンと言えなくもありません。
一方、ムーバルを駆っての戦闘では一応の戦力となってはいましたが、剣や譲と比べるとその戦闘能力は見劣りするようでした。
設定では白鯨の副操縦士となっていましたが、そもそも操縦カプセル内での搭乗者の序列がはっきり描かれているわけでもなく、何か特別な働きをするわけではありません。
強いて挙げれば、時としてぶつかり合う剣と譲を抑える緩衝材的な役割でしょうか?
元々、信は平和を愛する民であったというムー人の究極の姿とも言える人物であり、そのパワーを生かして積極的に戦闘に加わるというようなキャラではなかったので、これはある意味仕方のないことです。

信の特技は動物たちと意思を通じ合わせることができるということですが、その能力を発揮するシーンはいくつか見られるものの、それが何か具体的な役に立ったかと言われれば、残念ながら皆無でした。
7話では行方不明になった白鯨の消息を魚たちに尋ねたものの、何の手掛かりも得られなかったわけですし、オリハルコンの手掛かりを得ようと剣から「鳥や動物たちから聞き出せないか?」と言われたときも、何も分からないとのことでした。
12話で古代竜に襲われた際にも信の能力は役に立ちませんでした。もっとも、言葉が通じることと相手を説得することは別問題ですから、これはやむを得ないと言えますが。

3万年前、前世のシンムは動物たちと静かに暮らしていたようでした。自然との調和の中で生活する、それはラ・ムーが語った『科学と精神との調和、何よりも愛、言い換えるなら心』――ラ・グリルの精神そのものです。
現代に転生してもそれは変わらなかったようで、1話でも最初の登場シーンは指先に小鳥を留まらせて相手をしている姿でした。このときの信はイースター島に来たばかりだったはずで、それに対して小鳥が心を許しているというのは、信の持つ特別な能力を表現するシーンと言えます。
その後もイースター島でカモメが信の周りに集まって戯れるシーンが何度か出てきて、戦いの合間にある日常の穏やかな時間を演出していました。
戦いの中でも、苦難の中に居る人々よりもむしろ、動物たちに心を痛めていることが台詞の端々に見て取れます。
人間なら人間のことを一番に考えるのがごく自然でしょうが、信は人間だけでなく地上に生きとし生ける者を全て等価に考える、生命の代弁者と言えるでしょう。

ところで、信は戦士になるまではどのような人生を歩んできたのでしょうか?
ムー戦士の過去を描いたエピソード自体がほとんどなく、信に至っては皆無ですので想像するしかありませんが、信が社会の中で非常に浮いた存在だったことは想像に難くありません。
動物たちと意思を通じ合わせられるという時点で、周囲から奇異の目で見られてしまうことは間違いないでしょう。
それに対して信はあるがままにそれを受け入れたのか、それともその能力を隠して生きて来たのか……。
そんな信はムー戦士となって、初めて自分の居場所を見つけたのではないかという気がします。
3万年前の世界でも、シンムはアトランティスによって行き場を失う動物たちを護るために戦っていたはずです。
その精神を転送され、アトランティスの支配がもたらす世界が決して動物たちのためにならないと分かっていたことが、信のアトランティスと戦う動機だったのでしょう。
信は戦闘でそれほどの力を示しませんが、荒れ果てた大地を復興するとき、人間と動物たちとが調和した世界を築き上げるために多大な力を発揮することでしょう。

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