仮説03:白鯨について

ムーのシンボルにして守護神である「白鯨」。その正体は一体何なのでしょうか?
白鯨は外見上、背びれがない点を除けばナガスクジラ科の鯨に見えます。
もうひとつ違うのは全長200mに及ぶその大きさ。
信頼できる記録で一番大きな鯨はシロナガスクジラの全長31m、体重180トンですから白鯨は全長でその6.5倍、体重のデータはありませんが単純に縮尺6.5倍とすると体積は約275倍、実に約5万トンの体重があると推定できます。
恐竜などの陸上動物であればその巨体を支えることができるかどうかという現実的な制限がありますが、水中生活をする鯨であれば物理的には大きさの上限はありません。
むしろ、その巨体を維持できるだけの餌があるかどうか、そしてそこまで成長するだけの寿命があるかどうか、ということが重要になってきます。
そしてもうひとつ重要なのはどんな生物でも単独では繁殖できない、というごく当たり前の事実です。
しかし、どうも白鯨には同一種の他の個体がいないようです。
考えられるのは、白鯨は独立した種ではなく現有種の突然変異体ではないか、ということです。
色や大きさなど、通常とは明らかに違う特徴を持った動物を畏怖し、神格化することはムーに限らず極めて自然なことであると言えるでしょう。
その白鯨をサイボーグ化する必然性があるのかどうかは大きな謎ですが…。
もしかすると、ムー人にとって「生物」である白鯨に手を加えるということは、数多の古代文明が「自然」を切り開いて神殿を建立するのと同様の感覚なのかも知れません。
まあ、元々水中生活をする鯨ですから、その形状は同じ流体である空中で行動する際も極めて理想的であるとは言えるでしょう。
なぜ空を飛べるのか、は想像するしかありませんが、その巨体を支えることを考えると何か反重力的な装置を用いていると考えられます。

ではなぜ白鯨を「操縦」する必要があったのでしょう?
白鯨はラ・ムーの脳を移植されており、ラ・ムー自身の意思で戦うことも可能です。実際、1話で剣たちは白鯨の戦いをただ見ているだけでした。
「操縦」が必要なのは戦闘が可能かどうかではなく、その運用にあるのではないでしょうか。
ラ・ムーが自分の意思で戦うとき、戦闘に必要な情報は主に白鯨の感覚器官を通して得ているものと考えられます。
一番重要なのは視覚ですが、これは戦闘においては甚だ不利です。
なぜなら、水中生活をする鯨にとって視力はさして重要ではなく、―水の透明度を考えればせいぜい数十mの距離を見通せれば事足りますから―従ってその能力も劣っていると考えられるからです。
また、その体型から両眼視野が極めて狭いと考えられることも不安要因です。
「両眼視野」というのは文字通り「両目で『同時に』見ることのできる範囲」のことで、遠近感を掴むのに不可欠な要素です。
その点、白鯨内部の操縦カプセルからであれば操縦者が自分の目で敵を捉えての戦闘行動が可能です。

しかしさすがに平和の神だけあって、登場当初は飛行能力の他にはバリアを張る能力しかなく、およそ「戦闘」とはほど遠いものでした。
その後、様々な能力を追加していった姿は兵器的な「改良」と言うよりもむしろ生物的な「進化」、あるいは昆虫の「変態」を見るような感じでした。
7話の初変身シーンは「脱皮」といったイメージでしたし、19話の最終形態への変身シーンに至ってはまさに蛹から蝶が羽化するようでした。
サイボーグ化というと何か機械的な印象を受けますが、白鯨のそれは極めて「自然」なものでした。
例えて言えば、自然を征服しようとする西洋文明に対する、自然との和に重きを置く東洋文明のスタイルとでも言えましょう。

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